分析の仕事をしている人にとって、ボリュームゾーンとは大きく外れる値(外れ値)は、その処理が困難で厄介者である。
たとえばあるクラスにおいて期末テストの成績とボールの遠投の成績との関連を散布図でみたとしよう。一般的には頭脳系と体育系のこうした値はあまり相関しないので、相関係数を求めたところでせいぜい-0.1から+0.1くらいの値に落ち着くことだろう。因みに相関係数というのは1が最大値で強烈な正の相関、-1が最小値で強烈な負の相関、そして0が無相関という解釈となる便利な指標である。
ところが、この中に1人だけ突出して大谷選手のような、他の誰とも比較にならない遠投ができる生徒が混ざっているとややこしいことがおこるのである。その生徒が期末テストではクラスの平均値あたりであればなんのことはないのだが、たまたまその子が文武の両方に優れていてクラストップの成績だったりすると、その1人の存在だけで相関係数は0.9だとか、ほぼ「明らかな正の相関がある」という数字が出てしまうのだ。
もちろん、逆も言えることで、その生徒の成績がクラスではビリだったりすると今度は相関係数が-0.9より下回って「明らかな負の相関」のように見えてしまう。これは相関係数という指標の限界であって、どうにも補正できるものでもない。
一方、社会学に目を向けるとこのような「突出した値」情報は重要な示唆を与えることがある。ポジティブ・デビアンスとは、日本語訳するならば「ポジティブな逸脱者」ということになるのだが、良い方向に逸脱している人のなりわいには大いに学ぶべきことがあるというわけだ。
グローバルの例でいえば、ベトナム戦争後の農村にあって、子供たちの7割近くが栄養失調という惨状の中で極めて栄養状態の良い子供のいる家庭などが知られている。そこでは一般に食料と考えられていなかった水田から小さなエビやカニを与えていたことや手洗いを徹底させていたことが「学び」として得られたという。
ビジネスシーンにあっても、突出した営業成績をたたき出しているスーパー営業マンをつぶさに観察したりインタビューをしてそのノウハウを引き出すといったやり方はポジティブ・デビアンス・アプローチである。まあまあの成績の人から学ぶよりも「外れ値」の人から学ぶべきことは理にかなっているといえるだろう。
一方、「あの人は凄いがマネしない方がよい」論が噴出することも想像に難くない。かのベーブルースが他すべてのメジャーリーガーが20本に届かない中で一人だけ54本のホームランを打った時代もまさに「ベーブルースはすごいが、あの打ち方はマネするべきじゃない」論が多勢であったという。いまでいうアッパースイングを彼だけがやっていたのである。
大谷選手のバッティングもまた、名選手と呼ばれる人たちがこぞって「大谷はすごいが、あの打ち方はマネをしない方がよい」論を語る。大谷選手と比べてはるかに劣る選手がどうしてそのようなロジックをさも自信ありげに話すのかはわからないのだが、そのようなアドバイスを真に受けたら大谷選手に匹敵する才能のある人であっても大谷選手には到底、及ばない成績で止まってしまうことは目に見えるようであるのだが、どうだろうか。
ポジティブ・デビアンス。私もまた既存の常識にかからない、「外れ値」でありたいと思ったりもする。簡単なことでは無さそうなので、とりあえずはネガティブ・デビアンス、悪い方の逸脱者にならないように気を付けていきたい。
以上
コメント