有意差検定(test)

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アニメ映画スラムダンクが大ヒットしている。バスケットボールの世界を描いた原作漫画は1996年に連載終了したというのだから、ここにきての大ヒットは当時のファンも驚きではないだろうか。

登場する安西先生というキャラクターによる「あきらめたら、そこで試合終了ですよ」というセリフもまた有名なようで、このセリフに勇気づけられた人も多いらしい。確かにこのセリフは心に刺さるものがあり、スポーツだけでなく様々な場面でもこの言葉が私たちを後押ししてくれるポテンシャルがありそうだ。

一方で、将棋指しの世界などをみればその美徳感は様相が異なってくるといえるだろう。「投了する」ことを潔しとし、プロだけではなくアマチュアの世界であっても実際に自分の王将が敵に奪われるところまで試合を継続するなんてことはまずない。もちろん、「投了したら、そこで試合終了ですよ」というセリフがあったとしても、誰の心にも響かないだろうが。

医薬品の候補物質が、既存の医薬品と比べてみて承認してよいかどうかというのはフェーズ3、治験などと呼ばれ、ランダム化比較試験の結果によって白黒をつけることになる。仮に副作用が既存薬と比べて心配が少ないとか、投与回数がこれまで週1回だったものを月1回で済ませられるといったメリットがあれば別であるが、基本的には候補物質は既存薬に「効き目」で勝らなければ承認を勝ち取ることは出来ない。

ところで、その「白黒つける」が問題となるのである。例えば候補物質を投与した群が100例中50例、に有効であったとしよう。一方、比較対照とした既存薬治療群では100例中49例が有効であったといったように、接戦のケースが問題となる。

いやいや、ひょっとしたら接戦ではなくても大差があっても問題となる可能性さえある。たとえば被験者(ランダム化比較試験の参加者)が少なかったり、途中で処方をやめたりしてしまい、既存薬10例中5例の有効例に対して、候補物質の方が10例中8例、つまり率にしてみたら50%vs80%となっても、何せ調べた人数が低いので偶然による産物という疑いを払拭できないということになる。

こうした白黒をつける方法論としては、統計学の確率論を上手に使った有意差検定が用いられることが常である。ロジックとしては「仮に候補物質と既存薬の効き目が同点だったとして」、果たして得られた結果の珍しさがどのくらいなのかを調べる。

スポーツの場合でもその優劣をつける方法は必ずしも良策とは言えないこともしばしばあろう。サッカーの最高峰、ワールドカップの本線では延長戦までしても勝敗が決まらなかったらPK戦で勝敗を決めるということになるが、この方法論で強い方のチームが勝ちあがるという納得性があるとはどうも感じられない。

プロ野球の世界では強いチームとはいっても勝率60%に満たなくても年度優勝することはあるし、最下位チームの勝率も40%を切ることはあまりない。一方で将棋となれば番狂わせが発生することはまれで、藤井聡太6冠(2023.5.28.現在)がアマに負けることはまずない。競技によってその白黒は色々である。

医薬品の優劣を決めるときの有意差検定はその“水準”は大抵、5%と国際的に一致した数字が用いられている。「仮に効き目(実力)が同点だったとして」5%の珍しさというのは、将棋でいえば5試合して5試合とも一方が勝利する珍しさであり、5試合で1つ落とし4勝1敗だとするとその珍しさは5%未満にはならない、つまり「有意差があるとは判断できない、保留」となる。これを「有意差なし」と表現する。

ところでこの「有意差なし」という表現が大いに誤解を生んでいるようだ。あたかも「実力の差がない」ように聞こえるからだろう。アメリカの統計学協会もこうした誤解の多発を憂いており、有意差検定の利用は基本的には推奨していない。しかしながら、それでも医薬品の白黒を決める他によい“審判”も見当たらず、今後もやはり有意差検定に頼らざるを得ないのではないだろうか。

以上

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