天井効果(ceiling effect)

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日本人の平均寿命が長いことは周知のことだと思うが、その理由として例えば国民皆保険制度であるとか食生活であるとか色々と取り沙汰される中で、治療成績が良いというのもその1つである。

このところは期待の新薬といえば決まってグローバル治験、すなわち“世界同時開発”が主流なのであって、日本でだけ治験をするということはあまり無くなってきている。そんな中にあって、案外と欧米各国が日本も一緒に治験を行う際に「あまり日本での成績は入れたくない」という声が聞かれたりする。

もちろん、それは人種差別や偏見といったネガティブな理由では決してない。当該の新薬が本当によいものであるならば1日でも早く医薬品として承認させるべき思いは関係者だけでなく医療現場も患者さんも一緒のはずで、であるならば被験者がいち早く目標人数分に達するという意味で日本のデータも歓迎されるハズだ。

ではなぜ、「あまり日本での成績は入れたくない」声があるのか。それが天井効果と言われるものである。要するに比較対照として想定している既存の医薬品においても、日本は欧米と比較して治療成績がよい。それがどうしてなのかは確証的ではないものの、医療機関の衛生環境や生理学的な日本人の特性などもあろうが、恐らくは医療技術が優れているから、という仮説がもっぱら有力なようである。

治療成績がよいというのは我々、日本人にとって歓迎以外の何物でもないのだが、治験の存在意義であるところの「既存の治療よりも有意に優れる」ことを証明するうえでは、既存薬での治療成績が悪い方がその差がクリアになるのもまた然りなのである。

天井効果が痛手になるケースは、他にもある。例えば認知症や痛みを評価するスケール(主には自己評価によるチェックリスト)の良し悪しを研究しようとしたとき、軽度な認知症や軽度な痛みの人はあまり入れない方が賢明だろう。評価スケールは何らかの治療等の介入の前後であまり差がつかず、「このスケール、使えない」ということになりかねない。

街を歩いていると、「成績向上保障」をうたい文句にしている学習塾をたまに見かけるのだが、「1教科あたり25点以上アップを保証します。」、こういう塾は全国的にもあるのだろうか。

凄いな。でも、既に成績が80点だったらどうなんだろう。というか、75点の子供の成績を100点にすることを保証するなんてマジックではないだろうか、なんてことを思いながら、空を仰ぎ見る。青天井。

“天井効果の不安のない子供たち”がターゲットなのかな。

以上

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