BLO122 人的資本( human capital )

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大阪万博の開催は今回が2回目であるが、1970年の第1回で「世界の国からこんにちは」を歌ったのは私と同じ新潟出身の歌手、三波春夫さんである。三波さんの名ゼリフとして有名なのが「お客様は神様です」。ビジネス用語でいえば顧客至上主義といったところだろう。

この顧客至上主義も最近では見直されてきているようで、カスハラ、つまりカスタマー(顧客)によるハラスメントが社会問題化されている。客ならば何をしてもいいのか、本当に客は神なのか、という反論から、もはや「お客様は神様です」というセリフは過去のものになったようにも感じる。

その逆に見直されているのが、会社で働く従業員である。顧客至上主義の精神でいえば従業員はあたかも顧客の下僕のように立ち振る舞うことが要求され、客を不愉快にでもさせようものなら、当該の従業員は上司にこっぴどく叱られる、というのがその昔の常識であったように思う。ところが、最近では「よく考えてみると、ライバル会社との勝ち負け、差をつける要因はなにかといったら、それは従業員である」とされる。資本主義の資本といえば、基本的には貨幣や株式のことを指してはいたのだが、こうした視点から従業員もまた資本とみなされるようになった。これが人的資本、ヒューマンキャピタルである。

そのように顧客至上主義から、「至上」とまでは言わないまでも、「従業員重要主義」の発想はこのところ活性化している。働きやすい会社ランキングや経営層における女性の比率、育休のとりやすさなど、企業はあの手、この手を使って従業員に魅力をアピールする。

確かにこうした働く側の人を大切にするという姿勢は、雇用市場において優秀な人材を獲得できるチャンスを増大させていることだろう。プロ野球ではドラフト会議を行って平等なくじ引きで優秀な人材を選ぶが、こうした制度は例外的であり、一般の雇用市場は自由なのであり、然るに魅力的な会社に魅力的な人が集まるというのは至極当然のことだろう。

また、健康経営なる概念は、「企業が従業員の健康に気を使うと、結果として売り上げや利益が増える」というエビデンスに基づくものであり、その昔の福利厚生、つまり致し方なく(?)必要経費として出資せざるを得ないコスト対策とは一線を画す。会社オフィスにジムを作ったり、有給休暇を促したりすることが会社の利益につながるというロジックはある意味でコペルニクス的転回、革命的でもある。

気になる別のデータもある。離職率である。最近の新入社員は入社1年以内に1割が、3年以内に3割が退職するのだという。こうした退職を防止する策というのはつまり「従業員は神様です」のようなお話であり、三波春夫さんがもしご存命だったならばビックリするに違いない。

以上

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