先日、「はい論破」「それってあなたの感想ですよね」などと言って相手を言い負かそうとする子が増えているという新聞記事を読んだところである。ネット界隈に詳しい人ならその出所がどこだかご存じなハズで、“論破王”の異名をとる2ch創始者ひろゆきさんがその“出火元”である。
とは言っても恐らく論破王ひろゆき氏は「はい論破」なんてセリフを人生で一度も言ったことが無いのではなかろうか。“論破王”なる称号(?)も自称したわけでなく、勝手に周囲がそのように命名したものだと思われる。
唯一、ファクトと言えるのが「それってあなたの感想ですよね」というセリフで、これは確かにひろゆき氏の発言のようではある。恐ろしい(?)ことに2022年の小学生流行語ランキング1位だとも聞く。しかしながらこのセリフは恐らく小学生らが真似をして使っている使い方とは随分とニュアンスが違うようだ。
YouTuberのサトマイさんによればこのセリフはTV番組内の討論で発せられたらしい。ひろゆき氏らの「ネットに規制は不要だ」論に対して、ディベート(討論)の相手が、その際の「明らかに生放送や動画でユーザを巻き込むカタチで投稿者が快感を得ている」とした反論に呼応しての発言なのだという。
どうだろうか。もしこういったニュアンスで「明らかに」という言葉を添えて反論されたら、“おかしな反論だな”と感じる人は多いのではないだろうか。具体的なことは何もないのに「明らかに」とか、当人でもないのに「快感を得ている」などと断定されたのではこれは反論として成立し得まい。こんなときの「それってあなたの感想ですよね」という発言は妥当で自然に思える。
ディベートというのはアメリカでは小学生のときに既に体験学習なようなこともあるらしく、その中で恐らくは論理学やプレゼンのスキル、意見を裏付ける根拠の示し方などを学ぶのだろう。日本の教育システムでは体系立って学ぶことが出来ないのは惜しいところであり、それが間違ったカタチで「はい論破」「それってあなたの感想ですよね」の使い方を助長させているとも言えそうだ。
こうした持論や考察に対してまで「それってあなたの感想ですよね」などとされ、「エビデンス(証拠)を示してください」なんて言われたらたまったものではない。前述のサトマイさんはYouTubeの中で宮沢賢治さんの「雨ニモマケズ」に対してまで「それってあなたの感想ですよね」とする事例を使ってその滑稽(こっけい)さを示している。
もちろん、誰かの意見に対して反論する際には何らかの“根拠資料”を提示する必要は必ずある。その際は必ずしもデータやエビデンスを示すという大げさなものでなく「親戚の医者が言ってたのだけど」でも「なんとなく直観でしかないのだけど」でもいいだろう。前述したTV討論者も「明らか」などとは言わず、「ワタシにはそのように思えて仕方がない。」としていたならばディベートにおいてマナー違反にはならないだろう。
一方でこうした新聞記事を読んだ私には、悪い側面だけでもないように感じられた。もちろん「はい論破」などと言われていじめられる子がいるようで心配でもあるが、長い目でみれば論理学やディベートのスキルを日本人一般が獲得する過渡期なのかもしれない、と思えるのだ。「雨降って地固まる」、事態が好転する続報を期待したい。もちろん、これって私の感想ですけど。
以上
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