リアルワールドデータ(RWD)という、摩訶不思議な言葉はいま、どの程度の市民権を得ているのだろうか。製薬産業においてはもはや知らない人もいないだろうこのワードは、恐らくであるが別の産業の人にとっては聞いたことすらないものではないだろうか。
物質を医薬品として認めるかどうかというのは厳密な研究によってその判断がなされる。効きそうだとわかっても、果たして毒性がどの程度かなどは心配が尽きないため、試験管での実験に次いで小動物、大きめの動物、健常な人、といったように順に試験が実施され、それをクリアした物質だけがいよいよ治験とよばれる最終試験へ挑むことになる。
この最終試験では大抵の場合、無作為化臨床試験といって、当該の物質と比較対照とする既存の医薬品あるいはニセ薬とのガチンコ勝負がなされるが、処方される被験者は自分がそのどちらを処方されるのかわからない、というのが基本となる。
この「どちらを処方するか」というのをサイコロを振って(実際にはプログラムで乱数を発生する等、もう少しスマートな方法なのだが)決めるというところ、ここが実際の臨床現場では決してあり得ない工程である。
RWDという言葉はいわばこのような現実世界ではありえない研究や実験由来のデータの反対語として登場したといえよう。ホントの現実世界、実臨床世界のデータのことをRWDという。
このRWDの活用が日本のみならず世界中で大注目なのだ。上手に使えばベストの治療が何かクリアになったり、よい医薬品が開発されたりする。納得性のある治療の価格決めにも有益だろう。
2022年の7月に、このRWDの名前を冠した「リアルワールドデータ株式会社」が、これまたRWDを取り扱う「株式会社JMDC(ジェーエムディーシー)」に買収され子会社になるというニュースがあり驚かされた。前者は主に電子カルテ由来の、後者は主に保険請求由来の、それぞれ違ったRWDを取り扱っていたということから双補完性、相乗効果を期待してのものだろうと考えると、なるほど、というところでもある。
さて、今般はそのJMDCがオムロンに買収され子会社になるのだという。RWDを取り扱う会社はモテモテだ。
ちょっと待てよ。この構図、なんだか最近、目にした記憶がある。「MEGザ・モンスターズ2」の予告編映像がそれだ。
小さな恐竜を捕食しているティラノサウルスを、海から登場した巨大鮫が捕食する、というショッキングな映像。もちろん、この映像自体は“リアルワールド”ではないのだが、今回のようなM&A(企業買収)の当事者の目には暗示的で、そこそこリアルに感じられたかもしれない。
以上
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