この10月1日からステマ、つまり消費者が広告とはわからないカタチでのマーケティング行為が景品表示法違反になったらしい。インターネットがこれだけ普及された現代においてこの規制は遅いくらいだ。
ただ、そうはいってもネットによるマーケティングとしての「なりすまし絶賛コメント」みたいなのはそれを見破るのも難しそうだ。私もレストランを選ぶときにはネット上の星の数をそれなりに参考にしてはいるが、この星のランクを高めるために人を雇って「いいね」をたくさんクリックするというビジネスもあると聞く。
星が4つもあれば、「よい店なのでは」なんて思えてくるし、星が1つしかなければ恐らく選ばないことになるので、このタイプの”ステマ“はまだまだ暗躍しそうだ。
星の数というのが本当に社会全体を代表する指標だとしてもこれは臨床研究でいうところの「平均治療効果」とよく似た指標といえるだろう。個性的な味覚を自覚しているのであれば、こうした星はアテにならないだろうし、星4つの店に行ってみたらガッカリしたということも当然おきる。
ガマの油だとかクマの胃だとかといった江戸時代のクスリならいざ知らず、現代において医薬品として認可されるには、既存の治療薬に効き目で勝ることが証明されることが基本となる。
そのために無作為化臨床試験なる、医薬品認可の最終テストでは無作為に既存治療薬を処方される人と、新たな医薬品候補物質を処方される人とを選び、その両群でのガチンコの比較を行う。
これを批判的にとらえるならば、日常診療とは違い「その患者さんにとって最適な治療が選ばれる保証がどこにもない」ということになるだろうし、好意的にみれば「既存の治療ではさしたる効果が期待薄であるが、期待の新薬が処方される可能性がある」ということでもある。
いずれにせよその比較に使うのが両群における、平均的な効き目「平均治療効果」である。例えば新薬候補が80%、既存薬では60%の効き目ということになれば晴れて医薬品として認可されることになるだろう。
理屈からすれば新薬が承認されると同時に、負けた方の既存薬は市場から撤退させた方が好ましいという見方もあるだろう。80%のアタリがでるクジと、60%のアタリがでるクジをどちらも市場に残すことが有意義とは思えない。
しかしながら、実際のところは既存薬が負けたからと言って市場から撤退されることはない。それどころか、既存薬が処方されている患者さんは新薬が発売された以降も既存薬が処方され続ける方が多いともいえる。
何故かといえば、それが「平均」の治療効果だからということもその理由である。患者さん個人に処方すれば必ず新薬の方が効きがよいという保証はないので、既存薬で効いているのであれば何も新薬に切り替えることで、思いがけない副作用に見舞われたりするような危険を冒す必要はないわけである。
「平均」。この辺りが現代科学の限界ともいえるだろう。遺伝子レベルで個々人の“個性”が今よりも格段に低コスト、超速で調べられるようになった未来においては、「平均」ではなく、患者個々のベストオブベストの治療まで判定できる世界が待っているかもしれない。
以上
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