普段、私たちが使っている「ばくろ」という言葉は、基本的には悪いニュアンスしかない。
友達の秘密を「ばくろした」とか、不正が「ばくろされた」とか、大抵そんな感じだ。これに対して疫学分野では例えば薬剤疫学ならば薬剤が投与されたことを「曝露(ばくろ)」という。放射線やアスベストのような人体に害をもたらすこともあるものを浴びたり触れたりすることもまた曝露なので、その意味では普段使いの「ばくろ」と同様、悪い意味で使うこともある。
注目したいのはそれぞれに充てられるところの漢字である。普段使いの「ばくろ」は漢字で「暴露」と書くのに、どういうわけだか、薬剤曝露の場合は決まって「日」が左についた「曝露」とするのが常だ。
これはどうしてそのようなことになったのだろう。科学用語は難しい言葉が多いが、それでも1種類の意味しかなければ混乱をきたさないのに対して、特に日常使いしている言葉が専門分野で違うニュアンスで使われると誤解の元になる。私の勝手な類推でしかないが、この書き分けはこうした混乱防止を防ぎたい思いがそうしたのではないだろうか。
もはや“常識”となってしまうと、「薬剤暴露」などと記載すると「漢字が間違えてますよ」と指摘されること間違いない。私も「薬剤暴露」と記載することには大いにためらいがある。やはり「薬剤曝露」がしっくりとくる。
それにしても不思議な現象である。何ら権力や法規制が働いたわけではないのに、「exposure」のことを日常使いでは「暴露」、研究分野では「曝露」と表記するのは研究者らが故意的に結託したのではなく、恐らくは自然な社会現象がそうしたのである。
因みに「恥さらし」という言葉は、漢字では「恥晒し」と記載する方が一般的なようだが、「恥曝し」と表記することも間違いではないそうだ。ただし、こちらは「恥暴し」と記載すると間違いらしい。
渡邊さんとか、國枝さんとか、澤辺さんとか、苗字が旧漢字で表記されていると、画数も多いし、いっそのことルールとして旧漢字を禁止とし「渡辺さん、国枝さん、沢辺さん」に統一して欲しいと思っているのは私だけではないだろう。
しかしながら、「暴露」と「曝露」の書き分けは、疫学分野に身をおいている私にとっては混乱を招かないという意味で便利ではある。きっと旧漢字を使っている人も同じような理由があるのだろう。
以上
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