兵庫県知事にパワハラ疑惑があるというニュースが連日報道されている。何より最初の告発者であった元局長が自殺したということでおだやかではない。コトの真偽はともかくとして、只今は兵庫県の運営がうまく行ってないだろうことは疑う余地もないだろう。
ハラスメントという概念が今のように市民権を得たのはそんなに古い話ではなく、私が社会人になった頃には少なくとも言葉としてのハラスメントはここ日本では存在すらしていなかったと思う。
ところが、私が管理職になったころからセクハラ、パワハラ、という言葉が登場し、しまいには〇〇ハラスメントという概念で色んなものが登場したものである。かくいう私もハラスメントに関する人事研修を受けさせてもらったが、女性に対して「髪、切った?」と質問するのもセクハラに該当するなどという研修内容にちょっとあきれつつ、「ここまできたのか」「とにかくなるべく話さないことが肝心だな」とさえ思ったものである。
さて、人事のお仕事が学術なのかどうかは疑問を感じる人もいるだろうが、欧米ではれっきとした研究分野であり、ここ日本でも「HRM」と検索すれば、謎の企業や文化の用語ではなく「Human Resource Management」がヒットする。よい日本語訳もないが、「人的資本の管理」といったところだろうか。
その昔であれば会社員というのは会社にとって「金食い虫」とは言わねども、少なくとも固定費なのは間違いがなく、例えば600万円の給料を払っているのにそれよりも稼ぎが少ないとみなされれば「給料ドロボー」などと言われたりしたものである。その意味において「Human Resource」、つまり社員は資本金と同じように「人的な資本」というみなされ方をされるようになったというのは、ある意味で革命的だともいえるだろう。
HRMの対比語はPM、Personal Managementの略で、日本語では「人事労務管理」と訳されるものである。これは前述の通り「固定費」つまりコストとして企業経営にとってある意味の負担というニュアンスだ。一方、俯瞰的に会社を眺めてみれば、その会社の競合他社に比した強みもまた、会社で働く人たちそのものである、ということから我々会社員は負担(コスト)から「資源」(競争力の源泉)に昇格したというわけだ。
PMと比してHRMの何たるかは端的に言えば「やる気にどうやって火をつけるか」ということになるだろうか。コストとして考えれば、600万円の年間給与を年初に1回、支払うことも可能だし、あるいは毎月50万円支払うことでもよい。どのようなお金の渡し方がやる気に火をつけるのか。
その選択肢の中で、毎月30万円を月給として支払い、残りのお金は春と秋にボーナスとしてそれぞれ120万円ずつを支払うのが当人の「やる気」を高めるならば、そのような支払い方にしよう、となる。隣の社員と競争させ、勝利したならば給料を上げてやれば「やる気」は向上するし、その差額はごくごく少額でも構わない、というわけだ。
会社オフィスの場所や広さなども「やる気」の向上に貢献することも“学術研究”からわかっている。ただし、これには上限があることも調べられており、ある程度の清潔さと快適さがあれば十分で、それ以上にきらびやかにしたところでやる気には影響をもたらさない。
困ったことに管理職を長くやっている人はこのカラクリを熟知することになり、自身のやる気によい影響をもたらすような仕掛けはどんどん無くなってしまう。例えば製薬企業ではこのところ「患者中心」「患者ファースト」などと、耳障りのよい言葉が飛び交っているが、果たして本当に患者さんのことを親身に思っての号令なのか、それともHRM戦略としてのカラクリなのか。会社から発出されるワードを素直に聞き取ることが出来ないのだ。
会社員はこのようにして入社当初の純粋な心を失い、枯れていくのである。
以上
コメント