「すりこみ」という現象が動物で観察されるという。卵から出てきたヒヨコは最初に目にした動くものを親と認識し、それについてまわる。実際、ブリキのおもちゃを生まれてすぐのヒヨコに見せると、ブリキのおもちゃの行く方向へヒヨコはついていくらしい。
この現象を下等(かとう)だ、として下等動物などと揶揄している私たちも、案外と大差がない。初期値バイアスであるとか、アンカリングといった心理現象は、自身が自覚しているそれよりもはるかに最初に与えられたものに心を奪われるものであり、いわば「すりこみ」の人間バージョンといったところだろう。
なかでもひどい「すりこみ」現象がスリーパー効果である。
ガセネタ、フェイクと、情報化社会にあって「間違った情報」はこれまで以上に私たちを混乱させることだろう。特段、生成AIに頼めば、望みの画像も動画も思いのままとなろう未来では、その真偽を正しく見抜くことはほぼ不可能になりそうだ。
人類として出来そうな打ち手はその取り締まりである。「これはガセです」「これはニセ情報です」、そのような行為を行った人を取り締まる。そうすることでようやく、「なあんだ、AIが作ったニセ者だったのか」と、ニセ情報に惑わされていた状況から“脱出”できる。
、、、の、ハズなのだが、そうはいかない心理が「スリーパー効果」なのである。最初の「すりこみ」が強烈だと、後になってそれがウソだとわかっても、その後しばらくして「その情報はウソでした」という認識が薄らぎ、ニセ情報はホント情報との区別がつかなくなってしまう。情報のでどころが曖昧になって眠ってしまう(スリープしてしまう)というわけだ。
それ故に、悪意(といっても犯罪レベルとは限らず、いわゆるマーケティング戦略の類も含め)を含むウソ情報はこれからもどんどん流れることだろう。ライバル会社の商品にあたかもエビデンスがあるかのような“ケチ”をつけておき、後日になって「あれは間違いだった」とする。これを意図的に行ったとして、単なるミスとの区別がつかないので摘発することは至難の業だ。
情報のリテラシーを身に付けましょう、なんて声高にさけばれてはいるものの、生成AIの登場に伴ってまた一段と真偽の判定が難しくなる世界。心配である。この文章を人間である私が作成しているということがもはや証明することが出来ないのだから。
以上
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