ビジネスパーソンであればよくご存じだと思うが、製品をより多くの人に買ってもらったりする分野はマーケティングと呼称される。外側からみれば「営業」という仕事と何が違うのかちょっとわかりにくいかもしれないのだが、マーケティングは学問分野的な色彩でもあり、「とにかく気合いで売ってこい!」なんていう世界とは違うのだ。
マーケティング理論として、具体的にはSWOT分析であるとか、メディアミクスであるとか5フォースなどの理論は有名だ。多くのビジネスパーソンが憧れるところの経営学の登竜門、MBA(Master of Business Administration、経営学修士)の必須科目でもある。直感的には良い商品であれば必ず売れるハズだと思われがちだが、あながちそんなことはなく、売るための戦略、つまりマーケティング戦略が優れていたことで、実際はライバルの商品よりも見劣りがするのによく売れる、なんてことは当たり前によくある話だ。
マネジメントの父といわれるピーター・ドラッカーの言葉を借りるならば「マーケティングが目指すものは、顧客を理解し、製品とサービスを顧客に合わせ、おのずから売れるようにすることである。」と、なんだか格好良い。しかしながら、実際のところは見劣る商品を優れたマーケティング戦略によって売るという行為はちょっとサギっぽさがある。「マーケティングとは、買わなくてよいものを買わせるものだ」、なんて俗に言われたりもして、そちらの方がむしろドラッカーの言葉よりもしっくりくるようにも思える。
人の行動はおいそれと変化するものではなく、タバコを吸うのが健康に良くないことは頭ではわかっていても禁煙することが出来ない、というのがザ・人間という生き物だろう。ソーシャルマーケティングなる学問分野は、このような「頭でわかっていても行動を変えることが出来ない」課題に対して、マーケティング理論を応用して行動変化をさせよう、というものだ。
具体的にはコマーシャル活動の真逆、タバコのコマーシャルを自粛させたり、タバコに大きな課税をして購入をためらわせたりすることもソーシャルマーケティング分野ということになる。
問題は、学問領域と戦略領域の線引きが色々とこんがらがっているところだろう。簡単にいえばこうした「不健康行動を健康行動に切り替えさせる」学問分野は行動科学と言われたり、よりピュアに公衆衛生の実践ととらえたりもする。また、戦略をみても行動経済学なる分野があり、そこで知られるところのナッジ(ひじでつつく)とか、「仕掛け学」なんて呼称している先生もいて、カオス状態にある。
恐らくであるが、例えば「ダイエットが出来なくて困っている人をダイエットさせた」というお話のような実例を挙げて、「これは、あなたが学んでいる学問分野ですか?」と聞いてみたならば、行動科学、行動経済学、社会心理学、ソーシャルマーケット学、仕掛け学、公衆衛生学といった数多くの分野の先生が「はい、私の学問分野です」と答えるに違いない。
もうちょっと、学問分野をなんとか整理してもらえないものだろうかと思っているのはきっと私だけではないだろう。
以上
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