「えきがくしゃ」という、ひらがなの肩書でコラムニストなどを始めてからちょうど5年ほどになる。会社では「薬剤疫学スペシャリスト」なる有難い肩書にしていただいているし、専門の学会から「認定薬剤疫学家」なる称号も頂いているので、その意味では漢字で表記した方がいいのかもしれないが、どうもそんな気にはなれない。ホンモノではないからだ。
私が考える漢字の「疫学者」は、やはり専門スキルを習得し、名の通ったジャーナルにいくつもの疫学研究が掲載されている人で、何より疫学に人生を捧げている人だ。私のようなものが漢字表記で専門家を気取るというのはおこがましい。
一方で、私は長いこと統計学もなりわいにしてきており、統計解析に関わるプログラム作成であれば少なくとも1000本は下らない。これは今のところ私の周囲の誰よりも多い数であり、その意味では「とうけいがくしゃ」とひらがな呼称くらいなら許容されるかもしれない。
「えきがくしゃ」の漢字表記にはまた「易学者」という含みも込めている。要するに占い師だ。統計学というのは基本的に確率論を使って物事の解釈や意思決定をするものであるから、ときには間違った判断になることもあるのだが、どうやら世の中には占いと統計学との区別が出来ない人が案外と多いことに最近、気づいて驚いている。
先日ネットで見つけた記事では、あるタレントさんに不運なことがあり、しかも占いの結果がひどかったことを別のタレントさんが「占いなんて統計学だから」と励ましたという。励ましたタレントさんは元アナウンサーで、いわゆる高学歴の人だったのでなおさらびっくりだ。占いが統計学に基づいていると勘違いしている人がいたら今すぐ、思い直して頂きたい。占いには科学的根拠が全くないし、およそ統計学者が一番嫌う部類のものだ。
科学が進歩していなかった太古の昔では、人間を見守る形而上学的な存在があるに違いないという考えに至ることは極めて自然のことであったろう。つい数十年前まで欧米の大学では「神学」なる教科が存在し、しかも文学や数学よりも尊重されていたらしい。
易学一般、星占いなどが太古の昔から存在していたであろうことも自然なことと思われる。様々な文化の中で、祈りを捧げる存在であったろう偶像が度々発見される。雨ごいなどはそれが有効打であることに疑いの目が向けられることなく、ときに何の罪のない人がイケニエとして捧げられ命を落としてきた。
ただいまは宗教団体から「地獄に落ちる」と脅され、書物を数百万円で買わされたといったニュースが度々、報道されている。占い師が勧めるラッキーアイテムを言われたまま当人から購入するというのも、金額の違いさえあれ構図は同じようなものだろう。
社会心理学分野ではこうした占いについては「シロウト理論(lay theory)」と整理している。日本の血液型占いのように、どうやら世界各国、なんら根拠のないマヤカシの理論があるらしい。平生ならばアホらし、ということで気に留めなければそれでよいのだが、前述したような金銭のやりとりや、ときには偏見や差別につながることがあるという視点で当該分野ではマジメなテーマというわけだ。
占い師の常とう手段として使われるのは「バーナム効果」である。ホラ話のうまい興行師バーナムの名前からこの名前が付いたというが、これについてはまたの機会としよう。
ウェブで検索したところ、インフルエンサーのひろゆき氏は書籍の中で以下のように記載しているらしい。
“最初に結論を書くと、「占い=ウソ」で、「占い師=詐欺師」です。どんな良心的な占い師であっても、不安を煽ることで何かに頼りたくなる「心のスキマ」に入り込んで相手からお金を奪う行為に変わりはないからです。*”
なるほど、こうしたモノの言い方がひろゆき氏の人気の秘密なのだな、と合点がいく。
とはいうものの、おみくじだとか縁起物だとか、神か仏かインチキか微妙なものの存在は文化として根強いものであり、大抵は害のないものだ。何せこのブログを書こうという気にさせてくれたのは、今朝みたTVで私の星座「しし座」がラッキーパーソン1位だったからなのだから。
*ダイヤモンド社サイト
「ひろゆきが考える『頭の悪い買い物ワースト3』」より
以上
コメント