もしも85%の確率で的中するという占い師がいたとしたら、占ってみてもらいたいだろうか。何を隠そう、実は私はそのくらいの的中をさせる占いを実践できる自信がある。
例えば、下記の問いのうち、あなたはいくつ該当するだろうか。*
- あなたは外交的・社交的で愛想がよいときもありますが、その一方で用心深く遠慮がちなときもあります。
- あなたはある程度の変化や多様性を好み、制約や限界に直面したときには不満を抱きます。
- あなたは弱みを持っているときでも、それを普段は克服することができます。
- 外見的には規律正しく自制的ですが、内心ではくよくよしたり不安になる傾向があります。
- あなたの願望にはやや非現実的な傾向のものもあります。
およそ完全に否定しきれるものは少なく、ある程度は該当していたのではないだろうか。これはアメリカの心理学者フォアによる実験の一部を切り取ったものであり、このような表現はかなりの人にとって「当たっている!」と思わせる―それも、誰しもにではなく、こと自分に当たっている―効果のある表現である。
大抵の占い師はこのような手法を熟知しているので、これをあたかも「血液型O 型のあなたにだけ」とか「しし座生まれ」だとか、とにかく見事に「当たっている!」と思わせる演出が達者だ。タロットや水晶といったアイテムを準備すれば説得力はさらに上がりそうだ。
心理学分野では占いが「シロウト理論(lay theory)」と整理されて久しい。上述したフォアの実験は1948年のことである。以降、血液型やら星座やらを対象とした研究も実際に行われているというが、そこで整理された結論は「占いは根拠なし」だ。
一方で、その誰にでも当てはまる記述のことを心理学では「フリーサイズ効果」と呼称することとなった。フォア(Forer)の名前をとってフォアラー効果(Forer Efect)ともいうが、本件の出所として使わせていただいたのはウィキペディアの「バーナム効果」なので、嘘つき興行師バーナムの名前が一番よく使われているようだ。
フォアの実験では学生たちにどれだけあてはまっているのかを、「0(まったく異なる)~5(非常に正確)」までで点数をつけてもらったところ、平均値が4.26だったという。これは5点を100点満点として換算したら85.2点ということになる。
つまりはこの常道手段を使えば私も占い師として「85%当たる!」という謳い文句で仕事が出来そうだ。何せ訪れるお客さんは占いを信じて疑わない、つまり超ポジティブ層であり、あとは自分の演技力次第だ。
それにしても1948年に行われた心理学実験以降、数々の「占いはウソ」という研究結果についてほとんど知られていないのはどうしてなのだろう。占いが統計学に基づく、科学的根拠のあるものだとどうして勘違いされているのだろう。
私にはここに社会的課題が見え隠れしているように思えるのだ。もちろん、ある程度の識者であれば誰もが知っているであろう占いというインチキについてそれをわざわざ指摘するというのは野暮(やぼ)とも言えそうだが、ここに金品のやりとりや差別・偏見が密接にかかわる可能性がある。
折しも、ただいまは宗教団体に多額な献金をして生活に困窮したという、「宗教2世」が社会課題としてクローズアップされている。一方で寺や神社でお賽銭を投げることは一切の批判がない。おそらく100万円の札束をお賽銭として投入しても社会問題にはならないだろう。宗教は自由である、、、とするとしたら「多額の献金」を悪いこととするのは難しくもある。
ちょっと話が横道に反れてしまった。疫学なる学問は物事の因果性等について、研究デザインを使った“実証実験”に長けた学問である。現実世界のデータを使った研究も得意で、その際にはバイアスと呼ばれるアンフェアな“偏重”を除去する技術にも長ける。
これをもっと多くの人に知ってもらえたらというのが私の願いだ。インチキ商法や宗教2世問題の解決、まではいかなくても被害を減らすことに確実に貢献することになるだろう。その未来像としては占い師という職業が絶滅危惧種ということにもなりそうだ。
*ウィキペディア「バーナム効果」より
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