世界では未だ「あの人に逆らったらひどい目に合う」という認識をさせることで統制している組織も多いようであるが、ビジネスシーンにあっては、恐怖や圧力といった類でのマネージメントが不適切であることは共通認識である。
確かに才能豊かな一個人がワンマン経営するというのは、成功している組織もあるのでそれが間違いであるとは一概には言えないのだが、やはり一個人が強い権限を持ちすぎてしまうと、組織員としては失敗を隠蔽しがちになり企業不正へと邁進してしまう可能性が高まるだろう。逆に言えばワンマン経営であっても、他人の意見に耳を傾けられるワンマンであればその心配も少なそうである。
組織論として「心理的安全性」の重要性が認知されてきているようであり、それは「何でも気軽に話せる安心感」がその“場”にあることを指す。特に日本は古来から和を大切にしてきたという文化があり、それは他の人とは違う意見や行動、多様性に対して不寛容という悪い面があり、ワンマンのような権力者がいなくても「思ったことを発言しない」行動原理がまかり通ってしまう。
組織力ということを考えるならば、異なる意見について耳を貸すことの重要性は言わずもがなであろう。「社内では大反対されたけど、市場に出したら大ヒットした」なんていう話は枚挙にいとまがない。そもそも反対されそうな提案を発言できなければ、こうした大ヒットが生まれるはずがないのである。
また、個々人のコミュニケーションスキルを向上させるために、アンガーマネジメント研修であるとか、アサーティブ・トレーニングであるとか、学術的に体系だった概念の下での“舶来”の研修もよくやられているようである。欧米由来の教育学、心理学は日本で広まった儒教的精神、つまりは親には逆らわない、上司には逆らわない、従順、忠義という美徳とはかなり違うものである。もちろん、親や上司を尊重することは大切ではあるが、だからといって一切の反論をしないというのは大衆迎合的であり、哲学者ハンナ・アーレントに言わせれば「悪」である。(アーレントの唱えた「悪の陳腐さ」はナチスの台頭を許したところの命令に対する無批判、無責任姿勢を糾弾する)
かくして組織の管理職、マネージャはまた新たなスキル要求が加わったともいえよう。個人としてのアンガーマネジメントやアサーティブ・コミュニケーションとはまた別に、その“場”を上手に演出し、参加者の誰もが気軽に本音を言える雰囲気を作る。これは簡単なスキルではない。それを思うに会社員を辞めてよかったなと、つくづく思うのである。
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