「医薬品の副作用監視部門において研究デザイン策定の専門家というのは、サイボーグ001(ゼロゼロワン)のような存在です。」
昨年、製薬企業団体の企画がありパネリストとして呼ばれたのであるが、私のように研究デザインを策定したり、統計学を使ってデータ分析をしたりする人が足りないという話がそのパネルディスカッションでは展開された。医薬品が処方された後で生じる現象には病気の症状が改善した、あるいは薬が効かなくて何も変わらない、あるいは悪化したといったこととは別に副作用という厄介な“毒性”反応もある。副作用の監視部門は「ファーマコビジランス」という世界共通概念、業務があるのだが、その中で私のような専門家は確かに足りていないと感じる。
そうは言っても、ではどれほどの人数の専門家が必要なのかとなると、重大な副作用の懸念が頻繁に起きるというものでもないので、数人を雇用するほどでもない。他方、日本の黒歴史として知られる薬害スモンなど、果たしてそれが医薬品によるものかどうかを見破るためのスキルはときに必要不可欠であって、これは医療の専門家が何人集まっても案外と見破れなかったりする。実際のところスモンが発生した後、その原因がキノホルム製剤であるということが判明するまでに15年ほどの時間が掛かっている。医療現場の医師らはそれと知らずにスモンの治療薬としてキノホルム製剤を処方したりもしていたという。薬と副作用との因果性を見破るのは医学の専門性ではなかったりするのである。
研究デザイン学はデータサイエンスあるいは医療系データサイエンスにも属すると考えてよいが、より古典的には薬剤疫学分野で獲得できるスキルであり、国際的なコンセンサスとしてはMPHを所有しているかどうかがプロかアマチュアかの判別に使われる。MPHとは、Master of Public Healthの略であり、日本語では「公衆衛生学の学位」と翻訳される。私がこの学位をとったのは昨年のことであって、それまで私がやってきた研究デザインの策定や分析はいわば免許のないアマチュアがその仕事をしていたということになる。
ところで冒頭の「サイボーグ001」というキャラクターはご存知だろうか。仮面ライダーの原作者としても知られる故石ノ森章太郎さんの作品「サイボーグ009」に登場する、見た目は赤ん坊という特異なサイボーグである。普段は大抵、寝ているのだが、予知能力やテレパシー、瞬間移動などの様々なスキルを所有していて、作品の中で活躍するのは必ずしも多くはないのだが、0歳児である彼の才能がなければ到底、解決できない難局を彼の能力が救うのである。
会議の後で、私と同世代の人から「イワン・ウィスキーですよね」と声をかけて頂いた。サイボーグ001の本名だ。もちろん、これは少数派であり、若い世代の人にとってはサイボーグ001など知る由もなく、「たとえ話がわからなかった」「ポケモンに例えて欲しかった」などとも言われたところである。
フォールスコンセンサス効果とは日本語で「偽の合意効果」とも言われるもので、自分の考えは多数派に違いない、という間違った思い込みのことである。自分が指示する政党の意見は皆も同じ思いに違いない、なんて思ってしまう。また、自分が知っていることは皆も知っているものだという思い込みも「フォールス(間違い)」な認知のゆがみと言えるだろう。専門の学会などでは専門用語で物事を説明してもよいだろうが、こういった専門家の話は大抵の場合、一般にはチンプンカンプンで「何を言っているのかわからない」。伝わっているハズだというのは、悲しいかな当人の思い込みというのが常である。
然るに、「サイボーグ001」などというたとえ話を公の場でするのは如何なものか、と自問したりもする。本音を言うなら「知っている人にはウケるし理解が進むだろうが、知らない人には混乱のタネだ」というのは自覚的でもあったりする。その意味ではフォールスコンセンサスに気付かないのではなく確信犯というのが正しいだろうか。私の悪いクセである。本ブログにあっても、「きっと読者も知っているハズだ」と思い込むことが無いようにくれぐれも注意していきたい反面、「知っている人だけウケたらそれでよい」という誘惑にも打ち勝たないといけないな、とも思ったりもしている。
以上


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